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Alcon EYE Vol.5
症例から読み解く薬剤の処方意図
「ドライアイに関連する眼疾患」
監修:横井 則彦(京都府医科大学大学院医学研究科視覚機能再生外科学 准教授)
(1) 涙液減少型ドライアイ(シェーグレン症候群)
処方せん内容の理解
患者は60歳女性。数ヶ月前からの両眼の異物感を主訴に来院した。夜になると目をあけていられないという。2ヶ月ほど前から,近所の薬局で購入した疲れ目用の点眼薬を1日4~5回点眼しているが,まったく効果がないばかりか,ますます目をあけているのがつらくなってきているという。以前より口の乾きも強く,耳鼻科にてシェーグレン症候群の診断を受けている。他覚所見として,両眼同程度の球結膜の充血,両側の球結膜および角膜全体に広がる上皮障害(点状表層角膜症)を認め,BUT(breakup time:涙液層破壊時間)は両眼とも2秒と短縮,シルマーテストⅠ法は,右眼3mm,左眼2mmで短かった。以上より,シェーグレン症候群に伴う涙液減少型ドライアイと診断した。


涙液減少型ドライアイに対する初回時の処方は,防腐剤,特に塩化ベンザルコニウムフリーの人工涙液を基本とする(処方例 1-1)。また,本症例では,2ヶ月ほど市販の疲れ目用の点眼薬を使ってきた経緯がある。ドライアイですでに涙液と上皮の障害があるうえに,防腐剤(特に塩化ベンザルコニウム)で涙液の油層や上皮の表層細胞の障害を生じ,よりドライアイを増悪させている可能性がある。したがって,塩化ベンザルコニウムフリーの人工涙液を選択するが,これは薬剤性の涙液・上皮障害に対してウオッシュアウトをかける意味もある。


初診時の処方で,ある程度薬剤の障害がウオッシュアウトできたと考えられる1ヶ月後,消炎のために0.1%フルオロメトロンなどの低力価ステロイドを処方する(処方例 1-2)。
欧米では,ドライアイの中心メカニズムに炎症が関与するとする考え方が主流であり(0.05%シクロスポリン点眼液が第一選択),ステロイド点眼を人工涙液に併用すると人工涙液単独よりも効果があるという報告もある。特に,シェーグレン症候群などの免疫学的炎症に基づく重症ドライアイにおいては,抗炎症治療を併用すると効果的である。



また,ドライアイでは,眼表面のバリアー機能に障害があったり,細菌感染症を起こしやすいため,抗菌剤も最低限併用するのがよいと思われる。なお,薬剤性の上皮障害の合併がないと考えられる例では初回時よりステロイドを併用してもよい(処方例 2-1)が,副作用(眼圧上昇,感染症など)に注意しながら,効果が得られれば1ヶ月程度は継続し,その後は人工涙液およびヒアルロン酸で効果がない場合にのみ追加する(処方例 2-2,1-3)。
シェーグレン症候群の場合は,防腐剤フリーのヒアルロン酸ナトリウム(ヒアレインミニ)が保険適用として利用できる(スティーブンス・ジョンソン症候群も適用)。ヒアルロン酸ナトリウム単独では,涙液減少の重症例では悪化する場合もあり,また,本症例のように結膜充血を伴い,眼表面の炎症の関与が強い例では,充血が増強する場合もあるため,ヒアルロン酸は,人工涙液だけで効果が十分得られにくい場合に追加する(処方例 2-2,1-3)。
ヒアルロン酸をはじめ,ドライアイに対する点眼効果は,最低2週間程度用いないと確認できないことが多い。一定の効果が得られ,所見が安定していれば,1ヶ月間をあけて経過をみてもよいと思われるが,新しい点眼薬を処方したら,最初は2週間程度で効果を判定する。
ドライアイは,慢性疾患であり,かつ点眼治療で原因が解消されるものでもない。したがって,症状が良くなっても点眼回数を維持することが大切で,点眼の手を緩めるとすぐに悪循環が生じ,上皮障害が再発する。しかしながら,ある程度,症状に波があることも事実であり,症状がなければ点眼回数を少し減らし再発の有無を確認しながら様子をみるのもよい。逆に,シェーグレン症候群は,腺組織の破壊程度に応じて角膜上皮障害の程度に差がみられ,重症の上皮障害では点眼治療だけでは効果は期待できず,涙点プラグなどによる涙点閉鎖術の適応となる症例もある。
(2)マイボーム腺機能不全
処方せん内容の理解
患者は68歳女性。数年前からの両眼の不快感を主訴に来院。目をあけているのがつらいという。眼瞼縁をみるとマイボーム腺の開口部がほとんど閉塞しており,眼瞼を強く圧迫して初めて過剰なマイボーム腺の脂質が分泌される。両眼の角膜に同程度の点状表層角膜症を認める。BUTは右眼2秒,左眼3秒,シルマーテストⅠ法は両眼とも5mmであり,軽度の涙液減少を伴うマイボーム腺機能不全と診断した。
上下の眼瞼内に皮脂腺の一種として分布するマイボーム腺は,涙液中に脂質を分泌するが,その脂質は涙液油層を形成し,涙液の蒸発の抑制ならびにその安定性の維持に寄与している。マイボーム腺の導管の開口部が閉塞すると,普段の瞬目では容易に脂質が分泌されなくなり,涙液の蒸発が亢進するとともにその安定性が失われ,ドライアイ(蒸発亢進型ドライアイ)を生じる。脂質が分泌されない状態が続くと,その粘度が増してますます圧出されにくくなる。


まず,ドライアイに対しては,可能な限り防腐剤フリー(塩化ベンザルコニウムフリー)の人工涙液の頻回点眼を行う(処方例 1-1)が,回数を増やしても症状が改善しない場合は,ヒアルロン酸の点眼を併用する(処方例 1-2)。また,マイボーム腺の脂質の性状や開口部の閉塞の改善を目的として,蒸しタオルなどで眼瞼を温め(温罨法),眼瞼をマッサージして脂質の排出を促したり,開口部を含む眼瞼縁を点眼薬を浸した清潔綿棒やクリーンコットンアイなどで清拭してもらうこともある。

マイボーム腺機能不全には,眼瞼縁の炎症が少なからず関与しており,その炎症に眼瞼縁の常在細菌の関与も考えられている。すなわち,エステルを主体とするマイボーム腺脂質に対して細菌のリパーゼが作用すると,脂肪酸が遊離して眼瞼縁の炎症を生じ,マイボーム腺の導管の上皮が角化(過角化)して,閉塞に至らしめるという考え方である。したがって,眼瞼縁の炎症を抑えるために,低力価ステロイド点眼薬を抗菌点眼薬とともに用いることもある(処方例 2-2)。

また,より根本的に眼瞼縁やマイボーム腺内の細菌を除菌する目的で,テトラサイクリン系薬剤やマクロライド系薬剤の少量長期内服投与が行われることもある(処方例 1-3)。これらの抗生物質は,マイボーム腺への組織移行も比較的よく,テトラサイクリン系薬剤では細菌の出すリパーゼ活性を抑制し,マクロライド系では消炎作用といった副次的作用が期待でき,脂質の正常化により結果としてドライアイや眼瞼縁の炎症を軽減し,角膜上皮障害を改善に向かわせ得る。
(3)ライフスタイルに関連した蒸発亢進型ドライアイ
処方せん内容の理解
患者は27歳女性。現在オフィスで事務作業に従事しており,1日中パソコンに向かっているという。仕事中,眼の乾燥感,充血が強く,最近はソフトコンタクトレンズ(SCL)を装用するのが非常につらくなってきた。SCLを外して診察すると,BUTは両眼とも2秒で角膜上皮障害が認められ,シルマーテストⅠ法は右眼7mm,左眼6mmであった。結膜充血も認められ,ライフスタイルに関連した蒸発亢進型ドライアイと診断した。




本症例では,女性(男性ホルモン支配であるマイボーム腺や涙腺の機能が男性に比べて低下ぎみ),オフィスのエアコン,パソコン作業,SCL装用といった多くのドライアイのリスクファクターが眼の乾燥感の訴えに関与している。特にSCLは,レンズ上の涙液が非常に薄く不安定であるため,装用者の80%で乾燥感を訴えるといわれる。SCLの装用が避けられない状況では,まず防腐剤フリーの人工涙液の頻回点眼から治療を開始するが(処方例 1-1),SCLの装用前・後にヒアルロン酸を併用することもある(処方例 2-1)。SCLには防腐剤が吸着しそれが徐放されることによって角膜上皮障害を引き起こすことがあるため,SCLの上から防腐剤を含む点眼薬を点眼することは推奨されない。可能であれば,仕事中のSCL装用を中止して眼鏡に変更し,ヒアルロン酸点眼を治療に用いる(処方例 3-1)のがよい。
パソコン作業中は目を休める時間を取り入れ(厚労省のガイドラインでは1時間に10~15分),エアコンの風を浴びないように注意する。SCLは低含水・非イオン,あるいはワンデーディスポのものが推奨されるが,最近では,親水成分を徐放する機能性のSCLや,表面コーティングの工夫された濡れ性の良いSCLを選択することもできる。ケア用品としての多目的用剤(MPS)にSCLの濡れ性を良くする成分を含有するものもある。


ドライアイとアレルギーは共存しやすいため,痒みや眼脂を伴ったりレンズに汚れが付着しやすい場合は,医師の診察のもと,SCL関連アレルギー性結膜炎(巨大乳頭結膜炎など)に対する抗アレルギー薬点眼や低力価ステロイド点眼の併用が必要となる場合もある(処方例 4-1,5-1)。
(4)用法・容量・規格のチェック
表1 防腐剤フリー人工涙液
| 商品名 | 容量 | 主成分 |
|---|---|---|
| ソフトサンティア | 5mL | 塩化ナトリウム、塩化カリウム |
| アイリスCL | 7mL | 塩化ナトリウム、塩化カリウム |
| マイティア®ドライアイミニ | 0.5mL | 塩化ナトリウム、塩化カリウム |
| ノアール®ワンティア―α | 0.5mL | 塩化ナトリウム、塩化カリウム |
| コンプリートコンタクト®ワン | 0.5mL | 塩化ナトリウム、塩化カリウム |
| ティアーレ®f | 0.5mL | 塩化ナトリウム、塩化カリウム ヒアルロン酸ナトリウム(添加物) |
| ティアーレ®CL | 0.5mL | 塩化ナトリウム、塩化カリウム |
現在わが国で入手できる人工涙液は数え切れないほど多くあるが,ほとんどがOTC薬であり,医薬用として登録されているのは人工涙液マイティアだけである。しかしドライアイに対しては頻回点眼が必要とされるため,点眼薬に含まれる防腐剤も決して無視できるものではなく,ユニドーズ,あるいは5ml容器の防腐剤フリー(特に塩化ベンザルコニウムフリー),無菌フィルター容器入りのものが推奨され,その種類は限られる(表1)。人工涙液の成分は,少量のヒアルロン酸を含むものもあるが,実際は塩化ナトリウムおよび塩化カリウムで,浸透圧を調整した電解質溶液にすぎない。しかし,涙液ムチンの保持にはカリウムイオンが必要とする報告もあり,生理食塩水点眼に比べるとカリウムイオンを含むものが望ましいと思われる。 点眼回数は,コンプライアンスが良く,また効果のある回数として,われわれは7回(朝,昼,夜,2回ずつ+眠前),あるいは10回(朝,昼,夜,2回ずつ+眠前:重症例に対して)を選択している(ただしソフトサンティアはOTC薬であるため,処方せんの必要はない)。
表2 角膜保護薬
| 商品名 | 容量 | 主成分 | 防腐剤 |
|---|---|---|---|
| ヒアレイン®ミニ点眼液0.1%, 0.3% | 0.4mL | ヒアルロン酸ナトリウム | - |
| ヒアレイン®点眼液0.1% | 5mL | ヒアルロン酸ナトリウム | + |
| ティアバランス®点眼液0.1% | 5mL | ヒアルロン酸ナトリウム | + |
| ヒアロンサン®点眼液0.1% | 5mL | ヒアルロン酸ナトリウム | + |
| アイケア®点眼液0.1% | 5mL | ヒアルロン酸ナトリウム | + |
| コンドロン®点眼液0.1% | 5mL | コンドロイチン硫酸ナトリウム | + |
| アイドロイチン®1%, 3% | 5mL | コンドロイチン硫酸ナトリウム | + |
| フラビタン®点眼液0.05% | 5mL | フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウム | + |
| ビタスト®0.05%, 0.1%点眼液 | 5mL | フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウム | + |
| FAD点眼液0.05%「サンテン」 | 5mL | フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウム | + |
| ムコファジン®点眼液 | 5mL | コンドロイチン硫酸ナトリウム+FAD | + |
| タチオン®点眼液 | 5mL | 還元型グルタチオン | + |
| ノイチオン®点眼液 | 5mL | 還元型グルタチオン | + |
ドライアイに対する角膜保護薬(表2)として,従来は粘性物質を含むものが用いられていたが,現在は角膜上皮細胞の伸展促進,保水性のあるヒアルロン酸ナトリウムが第一選択となっている。ヒアルロン酸については,防腐剤に工夫をしたものがあり,ヒアレインミニは防腐剤フリー,ヒアレインは塩化ベンザルコニウムのうちの上皮に毒性の少ないものが選択されており,ティアバランスではクロールヘキシジンを塩化ベンザルコニウムの代わりに防腐剤として用いている。
(5) 薬剤師に期待される服薬指導
A. 患者説明のポイント
ドライアイの原因となる涙液異常には,加齢,性差(女性に多い),ライフスタイル(低湿,コンタクトレンズ装用,VDT作業)の関与する例が多く,膠原病や糖尿病などの疾患の関与は比較的少ない。点眼薬(抗緑内障点眼薬)や内服薬(抗ヒスタミン薬,抗精神薬などの抗コリン作用薬剤)がドライアイの原因になっていることもある。このようにドライアイは決して単一疾患ではなく,涙液の成分である油層,水分量,ムチンに様々なかたちで異常をきたし,その重症度も極めて多彩である。
しかし,涙液異常の結果として涙液の安定性の低下という共通のメカニズムを通じて,眼表面の上皮に障害を生じ,眼不快感や視機能異常(開瞼の持続でぼやけてくる)といったドライアイ症状が出現することとなる。この涙液の安定性の低下は,頻回点眼で涙液量を増加させることによって改善され,結果として上皮障害や症状の改善が得られる。
治療の一環として,原因となっているリスクファクターをできるだけ取り除くことも忘れてはならないが,原因が加齢など内因性のものである限りにおいては原因治療にまで至らないため,他の慢性疾患と同様,改善した状態を維持するための維持治療が必要で,そのために基本となる人工涙液の頻回点眼の継続が必要となる。そのことを適切に説明し,患者さんに十分理解してもらうことが重要である。
B. 点眼指導の実際
人工涙液は頻回点眼が基本となり,通常7~10回の点眼が効果的である。症状がよくなっても,それを維持するために,少なくとも人工涙液の点眼を継続することが望ましい。他の点眼と重なるときは,一般に5~10分ほど間を空けて点眼するほうがよいが,人工涙液にヒアルロン酸ナトリウムを併用する場合は,ヒアルロン酸点眼後1分程度で人工涙液を点眼する(後で点眼した人工涙液をヒアルロン酸で保水するという考え方)のも,点眼回数が維持でき,コンプライアンスを保つうえで有効である。 また,SCLの上から防腐剤を含む点眼を行うことは推奨されないこと,ステロイドや抗菌薬の点眼は漫然と続けるものではなく,必ず医師の指導のもとに用いることを伝える。
C. 注意すべき副作用
ドライアイに対する点眼治療は,多剤併用,頻回点眼,長期使用という注意すべき3つのキーワードをすべて含むため,副作用には特に注意する必要がある。 点眼の継続によってかえってドライアイ症状が増強したり,眼脂や充血が増える場合は,薬剤性の眼表面の障害を考える必要がある。 また,ステロイド点眼は一般に眼圧上昇や角結膜の感染症を引き起こすおそれがあり,ドライアイにおいても,ステロイドレスポンダーや過去に角膜ヘルペスや角膜真菌症などの既往のある例では注意が必要である。 また,防腐剤や点眼薬の成分にアレルギーがある例もあり,接触性の皮膚結膜炎は,点眼開始から数ヶ月して症状が出る場合もあるので,注意深い経過観察が必要である。
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