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Alcon EYE Vol.3
症例から読み解く薬剤の処方意図
「細菌性角膜炎」
監修:秦野 寛(ルミネはたの眼科 院長)
(1) 処方せん内容の理解
A. 起炎菌を同定できるまで、あるいは同定できないとき

患者は48歳の男性で、外傷後に発症した角膜病変と眼充血、眼痛のため眼科を受診した。角膜を観察したところ円形の角膜膿瘍がみられた。病変部を擦過し検体を採取のうえ塗抹検鏡を実施したところ、グラム陽性菌が疑われる所見が得られた。
さらに、起炎菌を同定するために、擦過物を培養検査に回した。結果が出るまでには数日から約1週間を要するため、角膜炎が進行しないように、初期治療としてはニューキノロン系の中でもグラム陽性菌に対する抗菌力が強いベガモックスとセフェム系のベストロンを併用し、それぞれ頻回点眼することとした。急性期は1時間ごと、2時間ごとへと漸減した。
細菌性角膜炎の治療においては、角膜実質の瘢痕形成を最小限に抑えることを目標に、適切かつ集中的な抗菌薬の処方が求められる。このためには、まず原因菌の推定および確定が重要となる。迅速診断としては、膿瘍・潰瘍擦過物の塗抹検査を行い、菌のおよその種類を推定し抗菌薬の処方を行う。また同時に細菌培養と抗菌薬に対する感受性検査も行う(処方例 1)。

患者は17歳の女性で、普段は再装用タイプのコンタクトレンズを装用している。角膜には輪状膿瘍が形成されており、膿性眼脂を伴っていた。角膜擦過物による塗抹検鏡を実施したところ、グラム陰性桿菌が疑われる所見が得られたため、初期治療としてはニューキノロン系のベガモックスとグラム陰性桿菌に対して強い抗菌力を有するアミノグリコシド系のサンテマイシンを併用し、それぞれ頻回点眼することとした(処方例 2)。
近年、コンタクトレンズを装用している若年者での角膜炎が増加傾向にある。再装用のソフトコンタクトレンズ使用者では、ケースに保存する際にグラム陰性桿菌の汚染を受け、これによる感染の可能性が示唆されている。
以上の2つの例については、患者背景や臨床所見、塗抹検鏡などからある程度、菌の推測が可能なケースであったが、日常診療においては起炎菌を推測できない場合も少なくない。起炎菌を推測できない場合には、角膜炎の主な原因菌を網羅できるようにニューキノロン系とβ-ラクタム系を併用することが推奨される。
B. 検査後に起炎菌が判明した場合
1. ブドウ球菌による角膜炎


角膜炎の起炎菌となるブドウ球菌はおもに黄色ブドウ球菌(S.aureus)であるが、表皮ブドウ球菌(S.epidermidis)などのコアグラーゼを産生しないタイプのブドウ球菌(coagulase negative Staphylococcus)も弱い菌であるが、起炎菌になり得る。
治療はニューキノロン系抗菌薬の点眼が有効である。ブドウ球菌は耐性化しやすく、旧世代のニューキノロン耐性を示す耐性菌の増加が問題となっている。そのため薬剤感受性検査が重要となっている(処方例 3)。
ニューキノロン系の頻回点眼で効果が得られない場合は、市販薬ではクロラムフェニコール系の点眼を使用し、自家調剤が可能であれば、バンコマイシン点眼あるいはアルベカシン点眼を自家調剤して使用する(処方例 4)。
2. 肺炎球菌による角膜炎

β-ラクタム系抗菌薬が第一選択としてあげられる。従来のニューキノロン系抗菌薬では肺炎球菌を含むレンサ球菌に対する抗菌力がやや弱かったが、新世代キノロンのベガモックスでは抗菌力が改善されている。
肺炎球菌による角膜炎は、ブドウ球菌と同様に限局性の膿瘍を形成することが多い。病巣は深部に進行し、穿孔することもある(処方例 5)。
3. 緑膿菌による角膜炎

緑膿菌は土壌やコンタクトレンズケース、体表面など至るところに存在する日和見感染菌であるが、角膜炎を起こすと速やかに進行し、輪状膿瘍を形成し、膿性眼脂を伴う。
治療はニューキノロン系、アミノグリコシド系の頻回点眼であるが、重症の場合は、アミノグリコシド系抗菌薬の結膜下注射やセフェム系抗菌薬の点滴などの併用も行われる(処方例6)。
4. セラチアによる角膜炎

セラチアは緑膿菌と同様に日和見感染菌であり、コンタクトレンズケースや保存液からしばしば検出され、再装用のソフトコンタクトレンズ使用者の角膜炎起炎菌となる(処方例7)。
5. モラクセラによる角膜炎

モラクセラの病原性は強くないが、眼表面に存在し、免疫力の低下に乗じて角膜炎を起こすと考えられている。
治療はニューキノロン系、アミノグリコシド系の頻回点眼が有効である(処方例8)。
(2) 抗菌薬使用における注意点
細菌性角膜炎の治療の基本は、起炎菌に対して感受性のある抗菌薬を頻回に点眼し、起炎菌を死滅させることである。初期治療で用いた抗菌薬で効果があればそのまま継続して差しつかえないが、良好な経過が得られなかった場合には培養検査ならびに薬剤感受性検査の結果を参考にして、すみやかに最適なスペクトルをもつ抗菌薬へ修正する必要がある(表1)。
点眼薬の投与方法については、1回量としては1〜2滴を点眼する。投与回数については、重症度と薬剤postantibiotic effect(PAE)を考慮する。PAEとは、抗菌薬を一定時間だけ細菌と接触させ、抗菌薬が除去された後も持続する菌の抑制効果を示す。PAEが良好な薬剤としては、アミノグリコシド系やニューキノロン系があげられる。β-ラクタム系のPAEは他剤に比較して短いため、より頻回に点眼するほうが有効と考えられる(表2)。
眼軟膏は、流涙が強い場合や小児などで投薬時に泣く場合などで使用される。重症例では頻回点眼に加えて、就寝前に眼軟膏を使用する。
また、結膜下注射は重症感染症や点眼のコンプライアンスが悪いときなどに使用されることがある。
表1 細菌性角膜炎の主な起炎菌と薬剤選択
| ブ ド ウ 球 菌 群 |
レ ン サ 球 菌 群 |
モ ラ ク セ ラ |
緑 膿 菌 |
ブ ド ウ 糖 非 発 酵 菌 群 |
腸 内 細 菌 群 |
|
|---|---|---|---|---|---|---|
| β-ラクタム系 | ◎ | ◎ | ○ | △ | △ | △ |
| ニューキノロン系 | ◎ | ○ | ◎ | ◎ | △ | ◎ |
| アミノグリコシド系 | ○ | × | ○ | ◎ | × | ◎ |
| マクロライド系 | △ | ◎ | ○ | △ | △ | ○ |
| テトラサイクリン系 | ◎ | ○ | ○ | × | ◎ | △ |
◎:第一選択薬,○:有効,△:菌株により有効,×:無効
表2 抗菌点眼薬と眼軟膏
| 一般名 | 商品名 | |
|---|---|---|
| β-ラクタム系:セフェム系 | 塩酸セフメノキシム | ベストロン |
| アミノグリコシド系 | 硫酸ゲンタマイシン | ゲンタシン |
| トブラマイシン | トブラシン | |
| 硫酸ジベカシン | パニマイシン | |
| 硫酸フラジオマイシン | リンデロンA,ネオメドロールEEに含有 | |
| 硫酸ミクロノマイシン | サンテマイシン | |
| マクロライド系 | ||
| ラクトビオン酸エリスロマイシン | エコリシン* | |
| クロラムフェニコール系 | クロラムフェニコール | コリマイC*,オフサロン* |
| ニューキノロン系 | オフロキサシン | タリビッド |
| ノルフロキサシン | ノフロ,バクシダール | |
| 塩酸ロメフロキサシン | ロメフロン | |
| レボフロキサシン | クラビット | |
| ガチフロキサシン | ガチフロ | |
| トシル酸トスフロキサシン | オゼックス,トスフロ | |
| 塩酸モキシフロキサシン | ベガモックス | |
| ポリペプチド系 | コリスチン | エコリシン,コリマイC,オフサロンに含有 |
*コリスチンとの合剤
(3) 抗菌点眼薬の注意すべき副作用
頻回点眼は副作用の発生率を高める。基本的に急性感染の初期治療である。アレルギー性の眼瞼結膜炎や、薬剤毒性による角結膜の上皮障害などに注意が必要である。特にアミノグリコシド系は角膜上皮障害を生じやすいとされている。漫然とした頻回点眼はすべきではない。
(4) 薬剤師に期待される服薬指導
細菌性角膜炎は、治療を誤れば重篤な視力障害につながる疾患である。治療の基本は、起炎菌に対して感受性のある抗菌薬を頻回に点眼することであるが、患者のコンプライアンスが悪いために効果が得られない場合がある。
患者指導のポイントは、1時間間隔や2時間間隔というような頻回点眼の処方に対して、処方どおりに確実に点眼するよう、十分説明することである。
また、複数の点眼薬が併用処方されることが多いため、そのような場合にはそれぞれの薬効が十分に発揮されるよう、点眼間隔は5分以上あけるように指導することが必要である。
● 参考文献
1) 感染性角膜炎診療ガイドライン作成委員会(編):感染性角膜炎診療ガイドライン.日眼会誌111(10):771-809,2007
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